○×的数学のお部屋
その1 驚き!正N角形の1頂点から他の頂点までの全線分の積はN!
この問題に出会ったのはTwitterでした(出典はこちら)。あまりに感動的なので○×的数学のお部屋の第1弾として取り上げたいと思います。リンク先にも図が紹介されておりますが、改めて問題を図示してみます:
例えば正5角形の場合。天辺の頂点をPとして残りの頂点へ対角線を引きます。それをそれぞれL1、L2、L3、L4としましょう。これらの長さをおもむろに全部掛け算してみます。すると、その答えがなんと辺の数と等しい「5」になるんです!「うっそーん」と思う方のために、実際に辺と対角線の長さを求めて検算してみましょう。
@ 正5角形の辺と対角線の長さ
上図のように半径1の円に内接する正5角形の辺の長さを求めてみます。いくつかやり方はありますが、ここは三角関数で攻めてみます。下図をご覧ください:
オレンジで示した内角は36度です(∠POP1が360/5=72度でその半分)。ここから赤い線分の長さがsin36度である事がわかります。sin36度?微妙な角度の値ですが、これは次のように式の形で求めることができます。
θ=36度と置きます。すると5θ=180度です。ここから3θ=5θ-2θ=180-2θと等号が結べます。sin(180-2θ)は高校数学で出てきた加法定理を使うと、
とsin2θである事がわかります。つまり、
です。左辺側を3倍角の公式、右辺側を2倍角の公式で展開すると次のように整理されます:
ここでcosθ=xと置いて、おなじみの解の公式でxについて解くと、
となります。cos36度は0より大きいので+側が採用されます。ここから求めたいsin36度は、
である事がわかりました。赤い線分の長さは正にこれです。ここから5角形の1辺の長さはその2倍、つまり、
と算出できます。
続いて対角線PP2の長さは下図をご覧下さい:
先ほどと同じように赤い線分の長さsin72度が求まれば良さそうです。嬉しい事に先ほどsin36度もcos36度も求めましたので、2倍角の公式ですぐに求まります:
sin36度と非常によく似ていますね。ルートの中の符号が違うだけ。これを2倍したのがL2の長さなので、
です。
A 辺と対角線分を掛ける!
では求めた正5角形の辺と対角線分を掛け算してみましょう。PP1、PP2、PP3、PP4がある事に注意して…、
出ました「5」!見事に正5角形の場合は命題が成り立ちました。
この命題、正3,4,6角形の場合でも成立しています:
素晴らしい!ファンタスティックです(^-^)。
では、正7角形はどうなのでしょうか?正8角形や正20角形は?正3〜6角形で成立しているからと言ってさらに先も成立するとは限りません。どんな正N角形でも成り立つかどうかを証明するには、このお話を一般化する必要があります。ここからが驚きの連続で楽しいんですよ〜(^-^)
B 正N角形の対角線を全部掛けるとは?
正N角形について上図のように頂点を定めます。すなわち天辺をPとして左回りにP1、P2、...、Pn-1と頂点に名前を付けます。この時、PP1の長さ(L1)は下図のように定義できます:
P1はPのすぐお隣の頂点なので、オレンジ色の角度は360度(2π)を正N角形の「N」で割った値になります。そのちょうど半分である緑色の角度はπ/N。ここから赤い線分の長さはsin(π/N)となります。よってL1はその2倍となるわけです。
次にL2を考えてみましょう:
オレンジ色の角度は先ほどの丁度2倍になります。同様に緑色の角度も2倍の2π/N。芋づる式に赤い線分はsin(2π/N)で、L2はその2倍だとわかります。
ここから、とてもきれいなルールを記述できます。P以外の頂点の添え字とsinの中の角度の倍数が対応していますよね。つまりPと頂点Pkを結ぶ対角線の長さは、
と表現できます。ただしk=1,2,3,...,N-1です。ここから、「すべての添え字の長さを掛け算する」というのを次のように表せます:
門構えみたいな記号(Π)はπの大文字で、日本語では「総乗」と呼びます。これは「Πの上下で表されている添え字の範囲分全部掛けなさい」という事を表しています。これの足し算版が皆さんおなじみのΣですよね。冒頭の命題はこんなすっきりとした式で表現できてしまうわけです。
2sin(k * π/N)をk=1からk=N-1まで掛け算するという事は、2がN-1回掛け算されますので、それは総乗の外に出せます。下段の展開はそれです。ここから総乗の結果SがNになるかどうかを示すには、
である事を証明すれば良いという事になります。
一見すると「ここからどうするんじゃい…」と思うわけです。だってsinってsin30度が1/2とかsin60度が√3/2など、ある特別な角度の時に式の形で表現できるけど、上の場合はk * π/Nとどう見ても式の形に出来なさそうな形。手詰まりなのかな…と。でも、それを打開する凄い展開が数学にはあるのです。
C オイラーさんは偉大だ!
sinとかcosは表現としてはすっきりしているのですが、如何せん展開し辛い物でもあります。所が1740年頃に稀代の大数学者レオンハルト・オイラーさんが、sinやcosなどの三角関数といわゆる自然対数の底(e:ネイピア数)の間の驚くべき関係を示しました。それがこちら:
「i」は虚数です。何と、cosθとsinθをi倍したものを足すとeのiθ乗になるという摩訶不思議な凄まじい関係がある事がわかったのです。これは「オイラーの公式」と呼ばれている非常に有名で美しい公式です。にわかには信じられないこの公式。「ななな、何で?」と思うわけですが、割とすっきりとした証明がWikipedia(オイラーの公式)にありましたので抜粋します:
という式をおもむろに作ります。この両辺をθについて微分します。右辺は「積の微分」という高校の微積で出てきた微分の分解則を適用できます。わさわさと展開していくと…:
綺麗さっぱりゼロになってしまいました(^-^)。式を微分したらゼロになる。これは「f(θ)がどんなθの値でも一定の定数になる」事を示しています。そこでθ=0をf(θ)に代入すると、
その定数が1である事が計算できました。ここから、
という関係がわかります。これだけでもすでに驚愕ですよね。この両辺にさらにcosθ+isinθを掛けると、
とオイラーの公式を導く事ができます。
この公式によって、三角関数は指数関数の式で計算が出来るようになりました!滞っていた天気が一気にスッキリと晴れ渡った感じです(^-^)。上の導出で出てきた式から、
も言えます。オイラーの公式のちょっと違うバージョンです。この式とオイラーの公式を足し引きすると…:
sinθやcosθそれぞれも指数関数で表現出来てしまうんです。もう驚異的としか言いようの無い関係です。ここからBの最後に導いたsinの総乗をさらに展開して推し進めてみましょう。
D sin(k*π/N)を紐解く
上のsinθの式のθにk*π/Nを代入すると、
となります。んー…このままだとまだ何ともです(^-^;。そこで、
と定数な所をαと置いてあげると、上式は、
とちょっと見やすくなりました。この式をさらに次のようにちょっと違う見方にします:
ここで、突然ですが両辺の絶対値を取ってみます。そうするとよりすっきりしてきます。左辺はまぁ良いとして、問題は右辺。「複素数の絶対値って何?」という話なんですが、これはこういう定義があります:
左辺はいわゆる複素数。この絶対値は上のように元の複素数と「共役複素数」という虚数側の符号が反転した複素数との掛け算で表現されます。結果としては実数部と虚数部を表す値(a,b)のべき乗を足し算した値の平方根となり、これは「複素平面上の距離」という概念になります。右辺側の絶対値を取ってみましょう:
掛け算になっている部分の絶対値は分割できるので、このようにぱらぱらと解いていけます。α^(-k)の絶対値が1になる理由は以下の通りです:
絶対値の中が綺麗に1になるんです(^-^)。
さて、ここでkの範囲を適用してみます。今kは整数でk=1,2,3,...,N-1です。左辺のsinの中はこの事から0以上1未満です。という事は、この範囲でsinは必ずプラスという事になります。つまり左辺の絶対値はそのまま外れます:
さ、という事でこの式を総乗にするとこうなります:
分母に注目です。出ました!2^(N-1)。Bの最後で『総乗の結果SがNになるかどうかを示すには、
である事を証明すれば良い』と導きました。その一端が見えてきていますね。あとは分子側がNになればこの章の表題は真です。
E 微分の妙義
分子側は果たしてNなのか?それを導くために、次のような方程式を持ち出します:
はい?という感じですが、この両辺をxで微分すると素敵な事が起こります。実際に微分してみましょう:
左辺側は問題ありません。右辺側は掛け算されている式を微分するときの例の分解則が適用できます。この時(x-1)'と掛け算されるグループと、(x-1)と掛け算されるグループに大別されます。(x-1)の方が大量にできるのですが、上ではざっくりと省略しています。何故かというと、この上の式でx=1を代入するのです。すると、x-1は0ですから、上の省略した部分はぜーーんぶ0になってしまうというわけ。で、x=1を入れるとどうなるか…:
出たぁ!出ました、N。凄い美しさですよねぇ、感動しますよねぇ(^-^)。Dの最後の式は、上の結果から物すごーく綺麗になります:
では、最後の仕上げです。
F 正N多角形の辺と対角線の積はN!
正N角形のある頂点から結べる辺と対角線を全部掛け算する式はBの最後で、
である事を示しました。この式から「2」を外に出すとEの最後の式が出てきます。それを代入すれば、フィニッシュです!
美しくフィニッシュです(T▽T)/。これでどんな正多角形でも対角線の積の結果はその辺の数であるNと等しくなる事がわかりました。身近な正多角形にある美しい関係…感動です。
以上の証明はWeb上に散らばる情報を調べまとめたものです。ただ「なぜ?」と思う所はどんどん掘り下げました。オイラーの公式は形は知っていましたが、今回導いてみて「ほ〜」と納得した一つでした。一つの問題を解くのに使うそういう珠玉の公式もまた数学の美しさですよね。